「幼児教育・保育 無償化」保育士不足対策を 秋草学園理事長の想い
所沢の仕掛人。第13弾
戦後間もない昭和24年、〝自立した女性の育成〟を目指し誕生した秋草学園が、今年、創立70周年を迎えます。同学園の3代目理事長の秋草征志さんに、昭和・平成から令和時代につなぐ学園に対する想いと、今年10月から施行される「幼児教育・保育の無償化」に伴い懸念される課題とその対応策などについて伺いました。
秋草学園 理事長 秋草征志さん
創立70周年 日本女性の礎を築き続けた秋草学園
所沢の情報を発信する「所沢なび」では、「所沢の仕掛人。」をシリーズでお届けします。
このシリーズでは、「所沢を元気にする活動をしている人」にクローズアップしてご紹介していきます。
取材:2019年5月14日 成田知栄子
もくじ
1.秋草学園の沿革
2.インタビュー
(1)創設70周年記念イベントについて
(2)世界で活躍する秋草の卒業生
(3)寝る間も惜しんで学生の実習・就職指導に
(4)所沢市と官学連携で地域に親しまれる学園へ
(5)年間600人が受講する人気の公開講座
(6)日本の社会福祉の根底を支える人材育成を
(7)幼児教育・保育無償化に向けての取り組み
(8)「秋草の魅力と持ち味を進化させたい」
1.秋草学園の沿革
秋草学園が誕生したのは、戦後間もない1949年(昭和24年)のこと。日本の復興と国民の育成の礎になるのは、「心優しき女性、よき妻、よき母である」との想いから、〝自立した女性の育成〟を願い編物学校として学園が誕生。同学園の建学の理念は、設立当初から続く「愛され信頼される女性の育成」です。
1960年(昭和35年)、編物に洋裁・和裁が加わり、服装の総合学園「秋草服装学院(秋草服装専門学校)」に。このころから
「学生のための学校」という考え方が伝統的に継がれ、時代の流れに合せた教育 が行われてきました。
【秋草学園ファションショウ】
【学習発表会(和裁)】
【学習発表会(洋裁)】
1969年(昭和44年)秋草保育専門学院が開校
1975年(昭和50年)秋草栄養専門学院が開校
1979年(昭和54年)所沢市に秋草学園短期大学を開学
1982年(昭和57年)狭山市に秋草学園高等学校を開校
1995年(平成7年) JR東所沢駅近くに秋草学園福祉教育専門学校を開校
現在、秋草学園では、秋草征志氏を理事長に、
秋草学園短期大学(埼玉県所沢市泉町1789番地。北野大 学長 )
秋草学園高等学校(埼玉県狭山市堀兼2404番地。小久保和子 校長)
秋草学園福祉教育専門学校(埼玉県所沢市東所沢1丁目11番11号。仲 志津江 校長)
あきくさ保育園(狭山市大字水野1246番地7。六平優子 園長)
の4つの教育機関を運営しています。
2.インタビュー
(1)創立70周年記念イベントについて
——創立70周年おめでとうございます。今年度開催される記念行事について教えてください。
秋草理事長:
ありがとうございます。今年度はまず、6月16日(日)午後2時半から「70thアニバーサリー・フェスティバル」を狭山市市民会館大ホールで行います。秋草学園の短期大学、高等学校、専門学校、保育園などが企画・出演し、ダンスや音楽、書道パフォーマンスを披露します。入場は無料ですので、在校生や卒業生、その関係者はもちろん、地域の方々に是非ご覧いただきたいと思います。
秋草理事長:
また、10月には所沢市元町にある「野老澤町造商店(まちぞう)」で、秋草学園の70年の歴史を写真でつづる展示会を開催する計画も進んでいます。学園の各文化祭でも70周年記念にちなんだ式典やイベントをする予定でいますので、こちらにも是非、皆さまに足をお運びいただければ幸いです。
学園関係者向けには、来賓の皆さま、学生・生徒をはじめとする学園関係者が一堂に会して、「学園創立70周年記念式典、祝賀会」を12月14日に開催します。
今年度の70周年記念事業に向けて、昨年度からすでに学内では準備等がいろいろ行われています。その1つに、同窓会「秋桜会」会員の皆さんからは、学園創設者の秋草芳雄先生と学祖の秋草かつえ先生の胸像を寄贈いただき、短期大学の入り口ロビーに建立いたしました。
また、70年の秋草の歴史がつまった記念誌も昨年度から制作を進めています。こちらは12月の記念式典の出席者をはじめ関係者に配布予定です。
(2)世界で活躍する秋草の卒業生
——70年間に渡り世の中に多くの人を輩出してきたわけですが、活躍されている方の中で何人かご紹介いただけますか?
秋草理事長:
卒業生も多いですから挙げるときりがありませんが、今回の70周年記念誌の作成にあたって、取材をさせていただいた方々を例に挙げますと、平成4年に短大を卒業した佐々木時子(ちかこ)さんや、平成22年に高校を卒業した山崎梨奈さんがいらっしゃいます。
佐々木さんは、保育士を続けながら女子ラグビー日本代表選手として活躍し、現在は、ラグビーの世界最強国ニュージーランドに渡りコーチをしながらインターナショナル・コーチの資格取得を目指しているそうです。
▲日本女子ラグビーチームとイタリア女子チームの合同写真(佐々木さんは後方中央)
山崎さんは、高校卒業後、国立音楽大学に進学しジャズを学び、アメリカのバークリー音大に留学。現在は、アメリカでジャズピアニストとして活躍されています。
12月の記念祝賀会では、山崎梨奈さんのジャズピアノのミニコンサートも予定しています。
▲エリスマルサリス国際ジャズピアニストコンペティションで(山崎さんは左から2番目)
(3)寝る間も惜しんで学生の実習・就職指導に
——理事長ご自身の秋草学園での歩みを教えていただけますか?
秋草理事長:
私が秋草学園に勤めて50年ほどになります。創設者の秋草芳雄初代理事長は私の従兄弟にあたる親族なのですが、実は、芳雄理事長から誘われるまでは教育に携わる仕事に就くとは思っていなかったんです。
ですから、中央大学商学部に進学して、卒業後は銀行に勤めました。就職してしばらくすると、芳雄理事長から学園の教員になるよう誘われました。私が教員の資格をもっていたことを知っていたんですね。その後、保育専門学校が短期大学になったのを機に事務局長を務め、現在は理事長に就かせていただいています。
▲理事長室でインタビューを受ける 秋草学園理事長 秋草征志さん
——銀行員から教員という違う世界に転職された当時の思い出はどんなことですか?
秋草理事長:
当時は1学年900名も在校生がいる保育専門学校でした。最初の10年間ほどは、授業を担当しながら、教育実習のことや就職のことなど、寝る間も惜しんで学生たちの指導に没頭した思い出があります。
現代の少子化とは異なり、当時は志願者が多く、学生を集めるのも容易な時代だったのですが、それでも秋草かつえ・芳雄ご夫妻と一緒に魅力ある学園にしていこうと理念を貫き、しっかりと学生を育てて、社会に輩出するということが、学校経営として重要な要素だと考えていました。学生の人数は多かったですが、一人一人を大切にして社会の一歩を踏み出してもらいたいと、そんな思いで必死でしたね。
1982年(昭和57年)に高等学校を開校しました。15歳人口が多い時代でしたから、1学年に700人くらい在籍していました。高校を開校したことで、秋草の教育理念を高等教育から行い短大へつなげることもできました。そんな時代の努力があったからこそ、今の秋草学園があるのだと思います。
▲所沢市街地行事「サンタを探せ!」でも秋草学園の学生たちがボランティアで参加
子供向けのゲームの収益金は、震災の復興支援金として寄付
(4)所沢市と官学連携で地域に親しまれる学園へ
——近年、秋草学園の学生さんたちによるボランティア活動は、地域住民から喜ばれていますね。
秋草理事長:
2017年(平成29年)に、秋草学園と所沢市との間で「官学連携に関する基本協定」を締結しました。短大のほうは2004年から締結していたのですが、高校と専門学校も加わり、さらに多くの生徒・学生が地域の行事に参加できる体制を整えました。
秋草学園は、保育・幼児教育系学科の短期大学、介護福祉士養成の専門学校、普通科の高等学校からなり、保育園を併設する学園ですが、けっして大規模な学校ではありません。しっかりと地域に根ざし、地域に親しまれる学園として関係性を大切にしていければと願っています。保育にしても福祉にしても、人と関わるスペシャリストを育てる学園でもあるので、地域活動を通じて人間性も磨いていってもらえるのではないかと考えています。
▲秋草学園は、所沢市の取り組み「都市鉱山からつくる!みんなのメダル」を市民に広報し、家電を集めるボランティア活動を行っています
(5)年間600人が受講する人気の公開講座
——そのほか、地域に根ざす取り組みとして、どんなことをされていますか?
秋草理事長:
短大では地域の皆さんを対象にした公開講座を2007年(平成19年)から開講しています。半期ごとに20種類近い豊富な講座を用意し、各期とも平均300名の方にご参加いただいています。毎回20種類の講座を実施している短大は珍しいそうですよ。
公開講座は大変好評です。こうして学園全体の学びの成果が、地域に還元できることは、私としても喜ばしいことだと思っています。
(6)日本の社会福祉の根底を支える人材育成を
——今、保育士不足、介護福祉士不足の時代ですが、秋草学園は、日本の社会福祉の根底を支える人たちを育てる機関としてどんなことを大切にされていますか?
秋草理事長:
一番は、人間性を育てることです。福祉という分野は、人と人との心の絆を大切にしていくことが必要で、知識だけでは成り立たない仕事です。「大変だな」と思うことは誰でもあるでしょう。でもそんな時に「大変だから辞めた」という人間ではいけないと思います。「大変だ」と思った時にこそ耐えうる人間性を育てたい。
2年間秋草に通えば、幼稚園教諭・保育士の資格、介護福祉士の資格は、取れてしまうかもしれません。でも、私たちの目指している教育はそうじゃない。学生たちが「幼稚園教諭とは?」「保育士とは?」「介護福祉士とは?」など仕事の意義や社会における立場を考えながら学んでもらえるように環境づくりをと教授陣にも話しています。簡単にあきらめない強い人間性を学園で養ってほしいと思います。
▲学内には地域の親子が利用できる「子育て支援ルーム」を併設。学生たちも地域の親子と接して学ぶことができます
(7)幼児教育・保育 無償化に向けての取り組み
——今年、幼児教育の無償化が施行されますが、それについての課題は何だとお考えですか?
秋草理事長:
さらなる保育士不足が加速することが懸念されると思います。それで、その課題に何か解決の糸口はないか、自分たちでできることから始めようと「潜在保育士の研究」を行っています。「潜在保育士」とは、保育士の資格を取得しているにもかかわらず保育の現場で働いていない人のことをいいます。一度は保育園に就職したけれど、結婚や子育てで辞めてそのまま復帰していない人が、全国で72万人もいるといわれています。保育士の資格を取得して現役で働いている人が4割、潜在保育士は6割と、潜在保育士の方が多い状態です。
もし、民間企業に勤めているならば、子どもがある程度大きくなって手がかからなくなったら、復帰する人は多いです。でも保育士はなかなか現場に戻ろうとしてくれないのが現状です。その主な理由が、時代の流れで、保育のやり方や子どもの感覚、保護者の考え方が変わってきていることに対する不安が挙げられています。
私たちは教育機関ですから、「ならば、潜在保育士を再教育しよう。もう一度、自信をもって保育の現場にもどって活躍する人を1人でも2人でも増やしていこう」と北野学長とも議論を重ねました。
——具体的に教えていただけますか?
秋草理事長:
具体的には、9月ごろから開始できたらと思っています。講習は午前と午後フルのプログラムで2日間。所沢市と狭山市にも協力してもらって、潜在保育士さんの参加を呼びかける予定です。短大の教授陣や栄養士さんを講師に、現状の保育について講義させていただきます。受講料は無料です。教育機関として、保育士不足や待機児童増加の問題に少しでもお役にたてるといいなと考えています。
また、詳しく募集内容が決まりましたらお知らせします。
(8)「秋草の魅力と持ち味をさらに進化させたい」
——ありがとうございます。最後になりますが、70周年を迎え、秋草学園の今後の展望についてお話しください。
▲秋草学園3代目理事長 秋草征志さん
秋草理事長:
学園が70年の歳月をかけて築き上げた「〝地域に根ざす生涯の学び舎〟として、『子どもが育ち、若者が未来を拓き、シニアが生き生きと集う』学びとその環境を提供する」という社会的使命・役割の持つ意義がますます重要になってきたと考えています。
社会的使命・役割をしっかりと果たしていくためには、社会環境の変化に的確に対応しながら、秋草の魅力と持ち味を、さらに進化させていきたいと考えています。
取材:2019年5月14日 成田知栄子