狭山丘陵の秋まっさかり編 -秋の雑木林に映える果実


11月になると、狭山丘陵の雑木林では木や草の実が色づき始めます。所沢市三ケ島にある「いきものふれあいの里スポット3」では、雑木林の中に長い遊歩道があり、林縁に沿って色とりどりに映える果実を見ることができます。今回は、早稲田大学所沢キャンパスの東側と南側を囲むように広がる「いきものふれあいの里スポット3」の秋の果実をご紹介します。
 

いきものふれあいの里スポット3(所沢市三ケ島)

永石文明

 

果実の色の不思議な変化、ノブドウ

遊歩道の林縁に垂れ下がる青や赤紫色、乳白色など色とりどりの丸い果実。ノブドウです。果実は未熟時の緑色から少しずつ色づき始め、乳白色、さらに成熟すると赤紫色や青色になっていきます。しかし、乳白色で成熟する果実もあるので、赤紫色や青色になる原因はノブドウミタマバエなどによる寄生が果皮の色を変化させる引き金になっていると考えられていますが、まだよくわかっていません。
 

ノブドウの果実(ブドウ科)
 

食用にされなかったオトコヨウゾメ

雑木林で赤い実をつける低木、オトコヨウゾメ。オトコヨウゾメを含むガマズミ(莢迷)の別名はヨソゾメといいます。多くのガマズミの仲間は実が熟すと食べられますが、オトコヨウゾメは実が痩せていて食べるところが少なく、食用にならないので男を冠するようになったそうです。ヨウゾメはヨソゾメの音の転訛です。オトコヨウゾメの葉は紅葉すると赤色になり、枯れると真っ黒になります。葉が黒くなる理由は、虫からの食害を防ぐ効果のあるタンニンが葉の中に多く含まれているからです。
 

オトコヨウゾメの果実(レンプクソウ科)
 

保呂師(ほろし)はヒヨドリジョウゴの古き名

ヒヨドリジョウゴの名は、ヒヨドリがこの実を好んで食べることから漢字で「鵯上戸」と付けられていますが、古い時代にはホロシ(法呂師)と呼ばれていました。ホロシの名の由来は、赤い実が乾燥してくると、果皮がぶつぶつ状になり、その様子がじんましんのホロシ(疿子)に似るところから命名され、のちに同じ音をもつ保呂師に変化しています。ヒヨドリジョウゴの果実はソラニンと呼ばれる毒素を含み、ジャガイモの新芽に含まれる毒素と同じもので、有毒植物の一つです。
 

ヒヨドリジョウゴの果実(ナス科)
 

学名も英名も「日本の美しい果実」、ムラサキシキブ

秋も深まった雑木林の林縁では、紫の実をたわわにつけた低木が目に止まります。ムラサキシキブです。漢字では紫式部。紫色の美しい果実だけではなく、枝葉や紫色の花、ともに美しいので、植物名では珍しく、平安時代の才媛、紫式部という人の名を借りた植物になっています。学名もCallicarpa japonica(カリカルパ・ヤポニカ)で、日本の美しい果実という意味で、英語でも Japanese beauty berry。国際的に美しさが認められた日本の植物なんですね。
 

ムラサキシキブの果実(シソ科)
 

天女の舞に見立てたゴンズイの果実

ゴンズイは漢字で権萃と書き、名の由来はいろいろな説があり、多くの図鑑では「役に立たない(木)の意味で、役立たずの魚のゴンズイになぞらえたものとして紹介されています。しかし、ここでは、天女の美しさも永遠ではなく、やがては衰えていく儚(はかな)さとして「五衰(ごすい)の花」に見立てた説を紹介したいと思います。花のように美しい赤い果実から真っ黒の種子が出るのが天女の五衰の花を思わせることに由来するというものです。三島由紀夫作『豊饒の海』の「天人五衰」でも儚き天女の舞が語られています。
ゴンズイの果実は3個の袋果からなります。袋果の果皮は秋に紅色に熟れ、やがて果実の皮が割れて、中から光沢のある黒い種子が顔を出します。
 

ゴンズイの果実(ミツバウツギ科)
 

一年草だけど新たな塊根を作るスズメウリ

スズメウリは同じウリ科のカラスウリに比べてずっと小さいので、スズメを冠する名前になったとされています。カラスウリは長さがおおよそ10㎝大の塊根(かいこん)をもち、翌年には、その塊根から芽生えてくる多年草ですが、スズメウリは一年草でありながら、秋深くなるとカラスウリのように、垂れ下がったつるの先が土の中に潜り、地中で太くなって新たな塊根を作ります。この塊根はそのまま冬を越し、翌年の春になると芽を出して新しい株として育っていきます。
 

スズメウリの果実(ウリ科)
 

秋の野を賑わすツルウメモドキ

林縁で生える植物といえば、鮮やかな赤色の種子をもつツルウメモドキかもしれません。ニシキギ科のつる性の低木で、つるは左巻きに巻きつきます。雌雄異株で雌株には淡い緑色の丸い果実がつきます。秋には熟して3つに裂けて、赤色の3つの種子が出てきます。この赤色は仮種皮(かりしゅひ)の色で、ほんとの種子の種皮色は淡白色で、中に4~6個ずつ入っています。同じ仲間の二シキギやマユミも同じく赤い仮種皮をもちます。
 

ツルウメモドキ(ニシキギ科)
 
「いきものふれあいの里スポット3」へのアクセス
バス:小手指駅南口バス停乗車、早稲田大学所沢キャンパス バス停下車。バス停より徒歩約1分。
車:駐車場はありません。


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nagaishi

所沢市に引っ越してからすぐに『所沢市の自然』(所沢市発行)の企画に参加させてもらったのが最初の所沢との関わりです。市内をくまなく回って撮影したり原稿を書いたりするうちに所沢の自然の魅力にはまりました。自然が好きで、狭山丘陵自然史研究会では雑木林や湿地、川の生物の調査研究のほか、大学(東京農工大学・立教大学)では自然環境の保全や自然保護文化論を担当しています。趣味の自然への旅が高じて毎日新聞旅行ではネイチャーガイドをしています。

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