所沢銀座通りの注目ビルに通行人も釘付け!「ところどころ植栽が!何階建てなの?」【探訪ツアーレポ】
銀座通りに突如として現れたビル、皆さん気になっているのではないでしょうか? いったいどんな建物なのか? 建築家の方に”探訪ツアー”していただいた模様をお伝えします!(2023年7月取材)
通行人釘付け 3月に竣工した銀座通りの注目ビル
所沢市街地でもひときわタワーマンションが多く、人通り、車通りの多い銀座通り。その道沿い、寿町の市営駐車場の隣にそのビルはあります。間口は8メートルと狭め、7階建てです。植栽が各フロアのところどころに植えられ、ビルでありながらも建物全体に“すき間”があってビルの向こうが見える……。果たしてこれは商業ビルなのか、人が住む場所なのか、判然としない面白さがあります。
設計を手がけたのは一級建築士の御手洗龍さん。
果たして、この建物にはどんな用途が、そしてどんな仕掛けがあるのでしょうか?
――このビルはどんな用途で建てられたのでしょうか?
御手洗さん:1~2階は店舗用のフロアになっています。3~4階はメゾネットの賃貸物件です。5~6階はオーナーさんが居住し、7階はオーナーさんの親御さんの住まいとなっています。
▲設計を担当した一級建築士・御手洗龍さんがビルについて説明してくれた
――階によって用途が違うんですね! それにしても、この一風変わったビル、どうしてこんな造りなのでしょうか?
御手洗さん:一般的な四角いビルは光をさえぎってしまい、周辺を暗くしてしまいますよね。そうならないよう建物に「すき間」を多く作っています。吹き抜け・テラスなど外とつながる部分が多いのはそのためです。
また、1~2階の店舗部分は外部空間を多くとり、テラス席を置けるような造りにしています。
▲道路に面した1階テナント部分。もつ料理店が8月オープン予定
▲1~2階中央部の店舗用物件の1階部分。飲食店としての利用も可能。現在テナント募集中
▲1~2階中央部の店舗用物件の2階部分。テラスに通じている
▲1~2階中央部の店舗用物件の2階テラス部分。ふちはカウンターとしても使える。照明が仕込んであるため「夜風にあたりながら1杯やる」なんて使い方も絵になりそう
――1~2階のテナント物件にはテラス席を置くこともできるんですね。この辺りには、1階が店舗物件になっているマンションが多いのですが、テラス席というのはなかなかないですよね。テラス席があって、そこから街と接することができるのは面白いですね!
▲2階奥に入居するプログラミング教室「コードキャンプキッズ所沢」
白い螺旋階段が印象的 シンプルな造りがオシャレなメゾネット居住用物件
――3~4階はメゾネットの居住用賃貸物件なんですね。どんな方の利用を想定していますか?
御手洗さん:1~2人暮らし世帯を想定しています。全て同規格ではなく、1軒1軒ちょっとずつ違う造りになっています。
▲3~4階は賃貸の居住フロア
▲銀座通りに面した賃貸物件
▲建物最奥の賃貸物件
――室内がシンプルな造りなので、住まい手の思いのままにアレンジできそうなところが良いですね! 白い螺旋階段も素敵です。
御手洗さん:3階部分は玄関と物が置けるスペースのみの物件、また一定の広さがある物件があります。3階は仕事場として、4階部分は居住スペースとして、といった使い方もできるのではないでしょうか。
細長い土地割に「生き生きした建物」を建てたい
――建物の面白さに興味をそそられ、あまり気にならなかったのですが、実はこのビルってとっても細長いビルなんですよね。
御手洗さん:幅8メートル、奥行き36メートルです。この辺りは街道沿いの街として、お店・母屋・はなれ・蔵が一体になり細長い土地割に配置されていました。その土地を活用するとのことで、当初のオーナーさんの要望は5階建てだったのですが、依頼内容を果たすと空間にみっちりと建ててしまうことになりそうでした。そこで、7階建てにしてできるだけ外も使って、風が抜けて光が入る自由な感じにしてはどうかとオーナーさんに提案すると喜んで受け入れてくれたんです。
▲最も高い吹き抜けは1~3階までの3層を使ったダイナミックなものになっている
――その結果、こういった動きのある建物ができた訳なんですね!
御手洗さん:生き生きした建物、人が使いたくなる建物を作ることを目指しています。散歩や登山が好きなんで、散策するときのワクワク感を建築にも持ち込んでいます。
1階には後方まで人を引き込めるように植栽を置いていますし、また3階までエレベーターを使わずに上がらなければならないので、階段を昇るというより散策するような気持で昇れるような造りにしています。
このビルの愛称「Grove」は「雑木林」を意味する言葉から引っ張ってきています。構造上の兼ね合いから鉄骨の柱は太いものや細いものがあるのですが、これも様々な木が混在する雑木林のようだなと思っています。
▲1階フロアの奥まで進むと、また違った表情を見せてくれる
――タワーマンションの多い銀座通りで、普通のビルを建てることもできた訳ですが、あえてそうしなかったんですね。
御手洗さん: 周辺の高層マンションは、住宅と店舗が完全に切り離されていると感じました。僕自身は建物が建って街がどうやって変わっていくかに興味があります。これまでの仕事でも、自治体の児童センターや駅前広場など「人の居場所」を一緒に立ち上げるプロジェクトに携わってきたので、このビルでも住んでいる人と店舗が一緒に賑わったら良いな、と思って設計しました。
▲草加市松原児童青少年交流センター「ミラトン」+松原テニスコート
この建物は外空間が半分くらいある造りになっています。店舗として、居住スペースとして、そしてお客さんとしてここを訪れる人にも、ビルの外もインテリアの一部にするような自由な感じに使ってもらえたらいいですね。
▲こちらの外灯は特注。2階の軒下には木が使われている。人の手が触れるところ、目に触れるところには木素材を活用している
所沢駅周辺では、住んでいる人が多く、駅前繁華街の次に街を歩く人が多いエリアとして存在する「銀座通り」。その街並みにできた一風変わったビルは、私たちに新たな価値観を見せてくれそうです。
御手洗 龍 (一級建築士)
1978年東京生まれ。船大工を経て万博施設の建築に携わった祖父のもと、建築・設計は幼少期より身近な存在だった。少年時代は図工が得意、絵を描くことも好きだった。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻(安藤忠雄研究室/千葉学研究室)を修了後、伊東豊雄建築設計事務所に入所。9年間勤めたのち独立し御手洗龍建築設計事務所を設立。公共施設の設計や店舗ディスプレイのデザイン、住宅の設計を行う傍ら、大学で非常勤講師を務める。
▶御手洗龍さん ホームページ
https://www.ryumitarai.jp/
■CENTRAL GINZA ST. BLDG.
所沢市寿町
交通 西武池袋・豊島線 所沢駅/徒歩10分
種別 店舗・集合住宅
構造 鉄骨造
築年数 2023年3月 築半年
階建 7階建